大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和56年(ワ)11331号 判決

原告

廣浜金属工業株式会社

被告

八洲工業株式会社

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

1 被告は原告に対し、金2億5000万円及びこれに対する昭和56年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

2  被告

主文と同旨の判決

第2当事者の主張

1  原告の請求の原因

1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた。

考案の名称 「弾性鉤止片付キヤツプユニツト」

出願 昭和42年3月3日

公告 昭和53年10月12日

登録 昭和55年7月31日

登録番号 第1336563号

2  本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである。「弾性鉤止片付キヤツプ11の弾性鉤止片11bの下部の凸部11b'閉じた状態の最大外径より小なる内径を有する凹部12aを全周に亘つて金属製封緘部材12に成形し、弾性鉤止片付キヤツプ11を閉じた状態にて、金属製封緘部材12の凹部12aと弾性鉤止片11bの下部凸部11b'とを係止して弾性鉤止片付キヤツプ11に金属製封緘部材12を装着し、その際金属製封緘部材12の側壁内径は弾性鉤止片付キヤツプ11が鑵台金14に嵌合される際に拡がる最大外径以上に成形されていることを特徴とする弾性鉤止片付キヤツプユニツト。」

3(1)  本件考案は次の構成要件からなるものである。

(イ) 弾性鉤止片付キヤツプ11(本件考案についての番号及び記号は別添実用新案公報(以下「本件公報」という。)記載のものを指す。以下同じ)の弾性鉤止片11bの下部凸部11b'の閉じた状態の最大外径より小なる内径を有する凹部12aを全周に亘つて金属製封緘部材12に成形すること。

(ロ) 弾性鉤止片付キヤツプ11を閉じた状態にて、金属製封緘部材12の凹部12aと弾性鉤止片11bの下部凸部11b'とを係止して弾性鉤止片付キヤツプ11に金属製封緘部材12を装着すること。

(ハ) その際、金属製封緘部材12の側壁内径は弾性鉤止片付キヤツプ11が罐台金14に嵌合される際に拡がる最大外径以上に成形されていること。

(ニ) 以上を特徴とする弾性鉤止片付キヤツプユニツトであること。

(2)  本件考案の作用効果は次のとおりである。

すなわち、本件考案にかかるキヤツプユニツト13は、弾性鉤止片付キヤツプ11が閉じた状態で構成されているので、(1) 従来のように衝撃等により弾性鉤止片が閉じて金属製封緘部材から飛び出すことが皆無であること、(2) パツキング15を挿入した場合、従来に比して確実に保持されること、(3) 弾性鉤止片付キヤツプ11を罐台金14に嵌入すればそのまま嵌着されて嵌着作業が非常に容易になること、(4) 金属製封緘部材12を閉めつけその下端を凹入する場合、金属製封緘部材12の側壁内径が従来に比して小さいので、容易に、しかも、確実に弾性鉤止片11の下端を押圧できること等、従来のキヤツプユニツトに比して顕著な作用効果を奏する(本件公報4欄4ないし14行目)。

4  被告は、本件考案の出願公告日である昭和53年10月12日から同56年6月30日までの間、別紙目録(1)ないし(4)記載の各製品(以下、総称して「被告製品」という。)を業として製造販売していた。

5  被告製品の構造を本件考案の前記構成要件に対応して区分説明すれば、次のとおりである。

(イ') キヤツプ1(被告製品についての番号及び記号は別紙目録(1)ないし(4)記載のものを指す。以下同じ)の爪1aの下部凸部1bの閉じた状態の最大外径より小なる内径を有する凹部(やや内側へ彎曲した下縁部)2a'を全周に亘つてプロテクター2に成形すること

(ロ') キヤツプ1を閉じた状態にてプロテクター2の凹部2a'とキヤツプ1の爪1aとを係止してキヤツプ1にプロテクター2を装着すること

(ハ') 右の際、プロテクター2の側壁内径はキヤツプ1が罐台金に嵌合される際に拡がる最大外径以上に成形されていること

(ニ') 以上の構造を有する弾性鉤止片付キヤツプユニツトであること

6(1)  本件考案と被告製品とを対比すると、被告製品の構造(イ')ないし(ニ')は本件考案の構成要件(イ)ないし(ニ)を順次充足するから、被告製品は本件考案の技術的範囲に属する。

(2)  本件考案における「金属製封緘部材12の凹部12a」について敷えんする。

本件考案については、もともと昭和42年3月3日特許出願がなされたが(特願昭和42―13147号)、その後同48年4月12日これが実用新案登録出願に変更され、その際、原出願の一部が分割され、これが第992150号として登録される一方、残部は本件考案として登録された。もつとも、右両出願の願書に添付した図面は、ともに原特許出願の願書添付図面がそのまま用いられた。

ところで、右分割出願にかかる考案は、「金属製シール(封緘部材)の端部が弾性鉤止片付キヤツプの下端より下方に突出し」、「(この金属製)シールの下端部分を台金に密着」させることが要件となつている。これに対し、本件明細書の実用新案登録請求の範囲には右と同一又は類似の記載はなく、したがつて、右「キャップの下端より突出したシールの端部」は本件考案の構成要件ではない。前記分割出願にかかる考案と本件考案とがともに登録されたのは、右のような構成上の差異があるからにほかならない。

右のとおりであるから、本件考案の願書添付図面中には右「キャップの下端より突出したシールの端部」が図示されているものの、これは、本件考案の構成要件ではなく、本件考案にいう「金属製封緘部材12の凹部に12a」とは区別されなければならない。そして、本件考案にいう右凹部12aは、被告の後記主張にいう「下縁を全周に亘つてやや内側へ彎曲させた」もので足りるというべきである。

(3)  次に、本件考案における金属製封緘部材12の凹部12aと弾性鉤止片11bの下部凸部11b'との「係止」について敷えんする。

本件考案においては、金属製封緘部材12の凹部12aの内径が、弾性鉤止片11b'の下部凸部11b'の閉じた状態の最大外径より小さくなるように成形されているから、弾性鉤止片11bが閉じた状態のキヤツプ11は、弾性鉤止片11bの下部凸部11b'が金属製封緘部材12の凹部12aに引つ掛かかり、金属製封緘部材12から外れて飛び出すことはないところ、この引つ掛かかつた状態を本件考案においては「係止」と表現しているものである。

他方、キヤツプ11は、罐台金14に嵌合される際、その弾性鉤止片11bが拡げられるが、金属製封緘部材12の側壁内径はその拡がつた状態の最大外径以上に成形されているから、金属製封緘部材12の側壁の内側と、弾性鉤止片11bが閉じた状態のキヤツプ11の側壁の外側との間には必ず間隙が存在する。

右のとおりであるから、本件考案において、金属製封緘部材12の凹部12aと弾性鉤止片11bの下部凸部11b'とが係止するというのは、金属製封緘部材12とキヤツプ11との間にいわゆる「遊び」がないことを意味するものではなく、被告の後記主張にいう「遊嵌」をも包含するものというべきである。

7  被告は、被告製品の製造販売が本件実用新案権を侵害することを知り又は過失によりこれを知らないで、被告製品の製造販売をしたものであるから、右侵害行為によつて原告が被つた損害を賠償する義務がある。

ところで、被告は、前記4の期間中、被告製品を少なくとも1億7330万4000個製造販売し、1個当たり少なくとも2円16銭、合計3億7433万6640円の利益を得たから、これが原告の被つた損害の額と推定される。

8  よつて、原告は、被告に対し、右損害金のうち2億5000万円及びこれに対する前記侵害行為の後である昭和56年7月1日から支払済みまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2 請求の原因に対する被告の認否及び主張

1 請求の原因1ないし5の事実は認めるが、同6及び7の事実は否認する。

2 被告製品は、以下に述べるとおり、本件考案の技術的範囲に属しない。

(1)  本件考案の構成要件(イ)は、金属製封緘部材12の全周に亘つて凹部12aを成形するというものであるところ、右にいう「凹部12a」は、金属製封緘部材12の下部の一部を凹入させ、下端部が弾性鉤止片11bの下端より突出するような形状、すなわち、本件公報第4図のような形状でなければならない。けだし、右のような形状でなければ、本件考案における「弾性鉤止片11bの下端を押圧させると共に罐台金14の水平部14bに密着させて封緘させる」(本件公報4欄1、2行目)という作用効果を奏しえないからである。これに対し、被告製品におけるプロテクター2は、下縁を全周に亘つてやや内側へ彎曲させたものであるにすぎない。したがつて、被告製品は本件考案の構成要件(イ)を充足しない。

(2)  次に、本件考案の構成要件(ロ)は、弾性鉤止片付キヤツプ11を閉じた状態で、金属製封緘部材12の凹部12aと弾性鉤止片11bの下部凸部11b'とを係止するというものであるが、右にいう「係止」とは、「弾性鉤止片付キヤツプ11と金属製封緘部材12とが確実に係止され輸送中に外れたりすることが皆無となる」(原告の昭和55年1月21日付け登録異議事件答弁書2頁14ないし16行目)という作用効果を奏するものでなければならない。これに対し、被告製品は、プロテクター2の下縁部2aの内径が爪1aの最大外径以下になるように下縁を全周に亘つてやや内側へ彎曲させることにより、キャップ1にプロテクター2が遊嵌するようにしたものであつて、これらが互に係止しているのではない。したがつて、被告製品は本件考案の構成要件(ロ)を充足しない。

3 被告の抗弁

仮に被告製品が本件考案の技術的範囲に属するとしても、被告は、本件実用新案権について先使用による通常実施権を有していた。

1 被告は、本件考案の内容を知らないで、被告製品と同一の構成を有するキヤツプユニツトを創作し、本件考案の出願前である昭和41年6月21日付けで意匠登緑出願(意願昭41―19359号。乙第4号証)をする一方、同年10月12日付けで図面名称「40Bローヤル」、図面番号「Y―6872―D」の製品図面(乙第5号証)を作成した。

2 そして、被告は、右乙第5号証の図面に基づく製品を製造し、これを本件考案の出願前に訴外株式会社長尾製缶所及び同株式会社加島製缶所へ販売した。

3 また、被告は、昭和41年10月20日訴外シエル石油株式会社との間で、乙第5号証の製品に関する年間価格契約を締結したうえ、本件考案の出願前に右訴外会社に対し、右製品を多数製造販売した。

4 その他、被告は、本件考案の出願前から、乙第5号証の製品に「ローヤルキヤツプ」という登録商標を付して大量に製造し、石油会社、製罐会社、塗料会社等へ販売してきたものである。

5 なお付言すると、乙第5号証の図面によれば、同図面に示されるキヤツプユニツトのプロテクターの側壁外径は44.5ミリメートルで、その板厚は約0.23ミリメートルであるから、プロテクターの側壁内径は44.04ミリメートルであり、他方、キヤツプの外径は明示されていないものの、右キヤツプユニツトが日本工業規格における#40のB形に相当することから、その外径は42.5ミリメートルであることがわかる。したがつて、右キヤツプユニツトのプロテクターの側壁内径は、キヤツプの外径より1.54ミリメートル大きく成形されていることが明らかである。しかも、それぞれの許容差、すなわち、プロテクターの許容差マイナス0.2ミリメートル及びキヤツプの許容差プラス0.3ミリメートルを考慮に入れても、プロテクターの最小側壁内径とキヤツプの最大外径との間には、少なくとも1.04ミリメートルの間隙が生ずるのである。よつて、乙第5号証のキヤツプユニツトと被告製品との間には、右の点の構成について何ら差異はないというべきである。

4 抗弁に対する原告の認否及び主張

1 抗弁事実はすべて否認する。

2 乙第5号証のキヤツプユニツトは、以下に述べるとおり、本件考案及び被告製品のいずれとも構成を異にする。

(1)  被告の主張は、乙第5号証のキヤツプユニツトと被告出願の「包装用容器のふた」の意匠(乙第4号証)にかかるキヤツプユニツトとが同一の構成であることを前提とするものである。ところで、乙第4号証の意匠登緑出願の願書に添付された図面のうちA―A断面図は、後に補正されているが、補正前の断面図においては、キヤツプとプロテクターとの間の左側に多少の隙間が認められるのに対し、補正後の断面図では、キヤツプの外径とプロテクターの内径とは密着しており、その間に隙間が全く認められない。このような補正を被告が敢えて行つたこと自体、被告がキヤツプの外径とプロテクターの内径との密着した製品を意匠の対象としていたことを示すものである。したがつて、乙第5号証のキヤツプユニツトもキヤツプの外径とプロテクターの内径とが密着したものであつたといわなければならない。

加えて、乙第5号証のキヤツプユニツトについて右に述べた点は、乙第5号証の後に作成されたという被告の図面「Y6891―D」(甲第5号証)からも明らかである。

(2)  また、乙第5号証によれば、そのキヤツプユニツトのキヤツプの内径は39ミリメートルであり、他方、日本工業規格によれば、#40のB形に対応する罐台金の外径は41ミリメートルである。したがつて、乙第5号証のキヤツプユニツトは、キヤツプの内径が罐台金の外径より2ミリメートル小さいことになり、キヤツプを台金に嵌入する場合、キヤツプの爪が台金によつて外側に2ミリメートル押し拡げられることとなる。ところで、乙第5号証のキヤツプユニツトが本件考案及び被告製品と同一であるためには、キヤツプが罐台金に嵌合される際にプロテクターの側壁内径がキヤツプの拡がりを阻害しないことが必要であるから、プロテクターの側壁内径は開いた状態のキヤツプの外径より少なくとも2ミリメートル以上大きく成形されていなければならない。乙第5号証のキヤツプユニツトが罐台金に嵌合される場合を想定すれば、そのプロテクターの側壁内径は、閉じた状態のキヤツプの外径42.5ミリメートルにキヤツプの爪の拡がり分である2ミリメートルを加えた44.5ミリメートル以上である必要がある。しかるに、乙第5号証のキヤツプユニツトのプロテクターの側壁内径は44・04ミリメートルであるから、プロテクターの側壁内径はキヤツプの最大外径より0.46ミリメートル小さいこととなる。結局、乙第5号証のキヤツプユニツトは、プロテクターの側壁内径がキヤツプの罐台金への嵌合時における爪の拡がりを阻害する構成になつており、この点で本件考案及び被告製品のいずれとも異なるものである。

しかも、乙第5号証の後に作成されたという甲第4号証及び図面「Y6871―D」(乙第18号証)記載の各キヤツプユニツトは、プロテクターの内径とキヤツプの外径との隙間を乙第5号証のものより更に0.3ミリメートル狭めたものとなつており、このことは、乙第5号証に示されるキヤツプユニツトが、プロテクターの側壁内径がキヤツプの罐台金への嵌合時における爪の拡がりを阻害しないという点を要素としていなかつたことを示すものである。

第3証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

1  原告が本件実用新案権を有していたこと及び本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第2号証(本件公報)とを総合すれば、本件考案は原告主張の各構成要件からなるものであることが認められ、この点は被告もこれを争わない。

2  被告が原告主張の期間被告製品を業として製造販売していたことも、当事者間に争いがない。

3  そこで、本件考案と被告製品との対比に先立つて、まず、被告の先使用の抗弁について判断する。

証人山崎栄の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第17号証及び同証言によれば、乙第5号証は、その作成日付けである昭和41年10月12日ごろ被告の従業員山崎栄によつて真正に作成された原図の写しであることが認められる。そして、右乙第5号証、成立に争いのない乙第2号証、第15号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第4号証、成立に争いのない乙第3号証及び証人長島廣久の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第1号証、証人玉置雄一郎の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第6号証、第16号証、証人長島廣久の証言によつて真正に成立したものと認めるべき乙第7号証、第9号証、第10号証の1、2、第11号証の1ないし5、被告製品であることに争いのない検甲第1号証の1ないし4、証人白井昇、同玉置雄一郎、同山崎栄及び同長島廣久の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告の代表者であつた長島定雄らは遅くとも昭和37年ごろからいわゆるプロテクター付きキヤツプ、すなわち、キヤツプにプロテクターを装着して一体とした製品の開発を進め、同年中に被告名義で2件の実用新案登録出願をしたこと、右長島らは右考案を改良すべく更に研究を重ねた結果、被告製品と同様に、下縁全周を内側へ彎曲させたプロテクターを、閉じた状態のキヤツプに装着した製品を創作し、被告において、昭和41年6月21日に意匠登緑出願(意願昭41―19359号)をするとともに、同年7月ごろから右製品の製造販売を開始し、同年10月12日ごろには前記山崎において、顧客に右製品の仕様を説明する便宜等を目的として、図面名称「40Bローヤル」、図面番号「Y―6872―D」の製品図面(前掲乙第五号証はその写し)を作成したこと、そして、被告は昭和41年10月20日シエル石油株式会社との間で、右乙第5号証の図面記載の仕様による製品等に関する年間価格協定を締結したうえ、同年11月ごろから同会社に対し右製品を製造販売したこと、その他、被告は本件考案の出願日(昭和42年3月3日)前から株式会社長尾製缶所、株式会社加島製缶所、尼崎製缶株式会社、ロツクペイント株式会社、田辺化学工業株式会社へ乙第5号証の仕様による製品を製造販売したこと、ところで、乙第5号証の仕様によるキヤツプユニツトのプロテクターの側壁外径は44.5ミリメートルで、その板厚が0.23ミリメートルであるから、右プロテクターの側壁内径は44.04ミリメートルとなること、これに対し、キヤツプの外径は図面上記載されていないが、右キヤツプユニツトが日本工業規格にいうB形の#40に相当するところから、その外径は42.5ミリメートルとなること、したがつて、右キヤツプユニツトの側壁内径はキヤツプの外径より1.54ミリメートル大きく成形されていること、もつとも、日本工業規格によると、B形の#40に対応する罐台金の外径は41ミリメートルであるから、乙第5号証の仕様によるキヤツプユニツトのように、内径39ミリメートルのキャップをこれに嵌合する場合、計算上、キヤツプの外径が2ミリメートル外側に広げられることになり、嵌合に支障を来たさないためには、キャップの外径とプロテクターの側壁内径との間隙が少なくとも2ミリメートル必要であることになるが、実際には前述の1.54ミリメートル程度の間隙があれば、弾性部材で構成されたキヤツプの爪が嵌合時に一時的に変形することによつて、嵌合は十分に可能であり、現に乙第5号証の仕様による製品を購入した顧客から被告に対し、嵌合が不可能又は著しく困難であるなどの苦情が寄せられた形跡はないこと、そして、乙第5号証の仕様による製品と被告製品との間には、右に述べたプロテクターとキヤツプとの間隙の点を含め、その構成上格別の差異は見当らないこと、以上の各事実が認められる。もつとも、成立に争いのない甲第4号証、前掲証人山崎の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第18号証、前掲証人山崎及び同長島の各証言によれば、右甲第4号証及び乙第18号証の各図面は、鉛筆で書かれた乙第5号証の原図のうち、図面名称、作成年月日又は寸法の記載を消しゴムで消すなどして訂正したうえ、これを複製したものであることが認められ、被告における図面の取扱いの適否には疑問を禁じえないけれども、右の事実によつても乙第5号証の証明力ひいては右の認定を左右するには十分でなく、甲第5号証、第7号証、第9号証、証人木村定興の証言によつても右認定を覆すに足りないし、証人西本貞造及び同木村寛治の各証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに採用できず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠もない。

右に認定した製品開発の時期及び経過に関する事実に照らせば、被告の代表者であつた長島定雄らは乙第5号証の図面に示されるキヤツプユニツトを開発した際、本件考案の内容を知らなかつたものと推認するに十分である。そして、前記認定事実によれば、被告は本件考案の出願前からその代表者らの開発にかかる前記製品を製造販売していたこと及び右製品と被告製品とは実質的に同一の構成であることが明らかである。

そうすると、仮に被告製品が本件考案の技術的範囲に属するとしても、被告は本件実用新案権につき先使用による通常実施権を有し、被告による被告製品の製造販売は違法性を欠いていたこととなる。被告の抗弁は理由がある。

4  以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(元木伸 安倉孝弘 裁判官一宮和夫は転補のため署名押印することができない。元木伸)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例